【訓練士が教える】犬にハウストレーニングをする5つのメリット
ハウストレーニングを愛犬に教えたいけど、なかなかきっかけのないまま成犬になってしまった、という方もいらっしゃいますね。
でも、大丈夫。ちょっとしたコツさえつかめば、楽しみながらマスターできますよ。
今回は、ハウストレーニングの5つのメリットと、成功へのポイント、さらに一度失敗してしまったしつけをリセットする方法をお伝えしてまいります。
■ハウスの種類
「ハウス」とひと口に言っても、いくつかの種類があります。その中から、代表的な3つの種類をご紹介します。
〇サークル
一般的にハウスと呼ばれるのはこのタイプを指すことが多いです。
人の赤ちゃん用のベビーサークルをイメージしていただくと分かりやすいのですが、4面または6面などで組まれた柵状の囲いです。素材はスチール製、プラスチック製、木製などがあります。
カラーやデザインが豊富なことから、好みのタイプを選ぶことができるのが特徴です。
インテリアになじむ色合いで、お部屋の雰囲気にピッタリなものを探すと良いですね。
〇ケージ
サークルとちがうのは、屋根(上部)が付いているという部分。
そして、サークルよりもサイズの小さいものが多いのですが、折り畳めるので移動の際に便利です。
素材はスチール製、ステンレス製、塩ビ板などがあります。
頑丈さ、耐久性を重視したものが多いため、動物病院やトリミングサロンなどでも使われています。
通気性に優れ、消毒、清掃がしやすい点が特徴ですから、清潔な環境を保ちたい方にピッタリです。
〇クレート
犬を持ち運ぶ際のキャリーケースがこれに当たります。
広くは、犬用のバッグやリュックサックなども含まれますが、本コラムでは、よく見るタイプの四角いボックスタイプで、持ち手の着いたものをクレートとして説明をします。
素材はポリプロピレン、スチール、樹脂などがあります。
耐久性に優れたものから、ゴロゴロと引っ張れることも可能がなキャスター付きのもの、軽さを重視したものなど、バラエティに富んでいます。
■ハウストレーニングを行う5つのメリット
〇1. 災害時の避難を想定して
地震、大雨、台風など、近年の日本では、異常気象が増えています。
災害が起こった際、犬を連れて避難所へ一緒に行くという場面も想定されるでしょう。
不安な気持ちからパニックを起こしてしまう犬もいます。過去に起こった災害では、避難所には犬と人は別々の建物で、犬はケージやクレートで管理されることがあります。
そんな時、ハウストレーニングをマスターしていれば、少しでも恐怖心を和らげる助けになることができます。
〇2. 旅先でのマナーとして
近年、全国的に犬と一緒に泊まれるホテルや旅館が増えました。
愛犬家である私たちにとって、犬と旅行に行ける環境は嬉しい限りですね。しかし、宿泊施設によっては、飼い主の食事中はハウスに入れるというルールがある場合も。
そんなときに犬に「ハウストレーニング」を予め教えておくことで、飼い主も犬も、ストレスなく快適に過ごすことができます。
〇3. 電車などの公共の場で
電車、バス、船、新幹線、飛行機に犬を乗せる場合は、クレートに犬を入れることが決まりとなっています。(一部の電車、バス、船では布製のバッグも可。
ただし犬の頭まで全体が覆われているなどの規定があります)普段は全くクレートを使用したことがないのに、急にこの時だけというのは、犬にとってはストレスそのものですね。
普段からクレートや他のハウストレーニングに慣らすことで、公共の乗り物もスマートに乗車できます。
〇4. 来客時に備えて
友人や親族が自宅に来ることもあるでしょう。
でも、中には犬の毛や唾液にアレルギーを持つ方もいます。
また、犬がどうしても苦手と言う方も。そんなときに備え、ハウストレーニングを教えておくと良いですね。
〇5. 快適な自分だけのスペースとして
犬は家族と一緒に居たがる生きものですが、時には自分だけでゆっくりしたいことがあるようです。
例えば多頭飼い、小さなお子様のいらっしゃるご家庭では、その様子が顕著に表れることも。
犬にも自室のような、自分だけのスペースを設置してあげることで、日々の生活にメリハリがつきます。
■基本のハウストレーニング
≪準備するもの≫
・ハウス(サークル、ケージ、クレート等)
・誘導用のおやつ(ごく少量)
・長時間かけて食べるタイプのおやつ、または、好きな知育おもちゃ
※おやつやフードを使ったトレーニングは賛否が分かれるところですが、動作と報酬を関連付けて脳に記憶させる、という導入段階においては非常に効率的です。
おやつやフードで良い印象を与え、さらにほめることをセットで教えていくことで浸透していきます。
≪教え方≫
~ステップ1~
- 教え始めの段階では、ハウスの扉は常にオープン状態、または最初は思い切って扉を外してしまってもいいです。
- (扉がバタンと閉まる音に恐怖を覚える犬もいるため)
- 扉を開けたハウスの手前側に、誘導用のおやつを少量セットします。
- ハウスに犬が自ら入るのを待ち、犬の体が半分でも中に入ったらすぐにほめて、その状態でさらにハウスの奥におやつを少量追加投入します。
- 最初は上半身だけならハウスに入るといった状態が続くかもしれません。
- ここで焦らないのがポイントです。無理にお尻を押してハウスに入れてしまいたい衝動をこらえましょう。
- 導入がうまくいったことが確認できたら、1日に1回、または2回くらいのペースで教えます。
- ただし、連続して毎日教えていくことが大事です。
- ご飯が好きな犬の場合は、ご飯の時間を利用して、常にハウス内で食べさせるようにしていくと、早く覚えてくれます。
~ステップ2~
- ハウスの奥まで抵抗なく入れるようになったら、次のステップへ。
- 犬がハウス内に向かうとき、または、ハウスに入っている状態で「ハウス♪ハウス♪」と、リズムのいい明るい掛け声をかけます。
- このように、動作と報酬、そして号令(コマンド)を結びつけて、犬に、今やっていることは「ハウス」という動作で、ハウスに入ると良いことがあるし、ほめられるよ。
- と、教えていきます。
- 次に、扉を少し閉めてすぐ開ける練習を何度か繰り返します。
- その際、時間のかかるタイプのおやつや、夢中になれるおもちゃ、知育玩具などをハウス内に入れましょう。
- これらを使う目的は2つ。犬がハウス内に滞在する時間を増やすためと、扉の開閉音に慣れるためです。
- ここまで来たら、ゴールはもうすぐ。
- 1~7までの導入が成功したら、あとは反復して繰り返し教え、犬の脳に定着させることだけです。
■プラスワン!成功へのポイント
上記の基本の教え方にプラスして、このポイントを抑えると成功率が高まりますよ。
ハウストレーニングの成功キーワードは3つ。
「うれしい」、「楽しい」、「大好き」です。これは犬のしつけ全般に言えることですが、指示の言葉(コマンド)と、ポジティヴな感情を結びつける。ここに成功の秘訣があります。
ハウスの中はいつでも清潔にし、寝心地の良いベッドやマットを置きます。
犬が落ち着けるように、ケージやサークルタイプなどの隙間が多いタイプのものは、上から布で覆うのがおすすめです。
「ハウス♪」という明るい掛け声とともにケージに誘導します。入ったらほめることを忘れずに。最初は短い時間から始め、徐々に長い時間にチャレンジしていくのがコツです。
■しつけの時期
尚、犬が幼い時期に始めるのが最も良い方法ですが、成犬、シニアになっても教えることは十分可能です。
遊びやゲーム感覚でしつけをし「ハウスに入ったら、良いことがあった!ほめられた」という良い印象を、繰り返して教えていきます。
犬が楽しみながらしつけを覚えることで、飼い主も犬もハッピーになれますよ。
■失敗しつけのリセットトレーニング法
一度しつけを失敗してしまった、という方もあきらめないでください。
犬のしつけは原因を探ることでやり直しができるケースがあります。
犬の気持ちを知って、新しい気持ちでしつけのリセットにチャレンジしてみましょう。
■ハウストレーニングの失敗例
「教えようとしたけど失敗して、うちの子はハウスが嫌いになっちゃった」といった話をよく聞きます。なぜ失敗してしまったのでしょうか。まずは具体的な失敗例を見てみましょう。
≪例≫
・犬がハウスに入った瞬間に扉を閉めた
・無理やりハウスに入れた
・ハウスになれるように、長時間入れっぱなしにした
・ハウスを使うときは犬の留守番のときだけ
などがあります。
■失敗の原因と悪循環
みなさんも見てお分かりのように、これらの失敗の原因に共通するのは、犬の気持ちを無視しているという部分です。
ハウスを教えよう、と意気込むあまり、犬が嫌がったり不快な思いを感じているのを無視してムリヤリ閉じ込めてしまうと、犬に「ハウスに入ると、寂しい思いをする」という印象が刻み込まれます。
そのため、「ハウス」の指示に抵抗して逃げ回るといった行動をとるようになります。
さらに、それを飼い主が追いかけ、捕まえてハウスに入れるという流れが、一連のパターンになってしまうことが多いのですが、これは、さらに悪循環に陥ってしまう代表的なケースですからNGです。
■ハウストレーニングの間違った考え方
本来は犬にとって落ち着く寝床であり、自分だけの守られたスペースであるべきハウス。
でも、残念なことに、まるで犬の「おしおき部屋」として犬を閉じ込めるために使用している飼い主さんもいます。
■成功への秘訣
ハウスはおしおきとして、閉じ込めるスペースではありません。
ですから、まずは飼い主さん自身の考え方をリセットしましょう。
ハウスは快適な犬の自室であり、安心できる犬専用のリラックススペースと捉え、「ハウスの中では絶対に叱らない」というのが、非常に大事な秘訣です。
これらをふまえ、もう一度、基本のハウストレーニングを参考に教えなおしをしていきます。
一見、遠回りに感じるかもしれませんが、失敗の原因を探ることは、成功への近道です。
振り返って今までの道のりを確認し、新しい気持ちでリセットトレーニングにトライしてみましょう。
■問題行動、無駄吠えにも効果的?
ハウストレーニングを一切教えない犬は、無駄吠えが多いという話も聞きます。
確かに、ハウスというのは言わば犬自身のテリトリーです。
その中では誰にも邪魔をされずにくつろげるスペースとして犬は認識をしています。
しかし、ハウスが無い犬にとっては、家全体が犬自身のテリトリーになります。
テリトリーとは縄張りという意味も含みますから、犬は、家全体が自分の縄張りだといった認識が強くなります。
その意識が高まれば、防衛心も強くなる傾向にあり、結果として、チャイムの音や、窓から見える人、モノ、音に警戒して吠えるといった、犬の問題行動のひとつである「無駄吠え」につながると言うわけです。
家全体を警備するような無駄吠えをさせないためには、縄張り意識が家全体に及ぶ前に、ハウストレーニングを教えることが最善策ですが、すでにこの行動が起きている場合でも、根気よくハウストレーニングを教えることで、一定の効果が見られる場合につながることが予測されます。
■まとめ
いかがでしたか。
様々なシーンで役立つ「ハウストレーニング」をご紹介してきました。
よく「覚えておいて、損はない」という言葉がありますが、まさにこのトレーニングもそのひとつです。マスターしてしまえば、動物病院やホテルでの預り時、移動、緊急時だけでなく、自分の部屋を持つことで、自尊心が生まれ、精神が安定するという犬もいます。
犬の祖先は狼だということは、みなさますでにご周知のとおりですね。
小さな犬も、鼻ぺちゃな犬。犬の姿形はおよそ2000種類にもなりますが、種類や見た目はちがっても、どの犬も狼をルーツに持っています。
犬の先祖である狼たちは、子を産む場所や普段の寝床は洞窟を使うことが多かったようです。
その理由として、洞窟は入口の一方以外は壁で覆われているために、外敵から群れを守りやすかったからだと言われています。
こうした狼の習性は、姿形が変わっても、現代の犬たちにも受け継がれています。
ですから、このしつけは犬の持つ本能的な欲求のひとつだとも取れます。
一度覚えてしまうと、熟睡したいときや、静かにしたいときに、好んでハウスに入るようになる犬が多いのは、そのためかもしれません。
外出先や緊急時に役立つだけではなく、犬の精神をリラックスさせる作用のあるしつけ、「ハウストレーニング」。
これを上手に取り入れて、犬も飼い主も、より快適で健やかな毎日を送りましょう。