【ドッグトレーナー監修】子犬の『咬み』と『噛み』のちがいについて解説

子犬のかみグセに悩んでいる、という飼い主さんは多いものです。みなさんがご心配されるのは「このまま、人に咬みつく犬になったらどうしよう?」とか、「よその子も、こんなにじゃれ噛みするの」ということではないでしょうか。

子犬のかみグセには、二種類のパターンがあります。

本日は、子犬期の甘噛みと、咬みつきについて、その違いと対応、理由などについて解説します。

 

子犬の甘噛みについて

子犬は甘噛みをするものだから。そう理解をしている飼い主さんはどれくらいいらっしゃるのでしょう。

まずは、この子犬期の甘噛みについて、私たちは理解を深める必要があります。

それでは、子犬の甘噛みについて詳しく見ていきましょう。

 

子犬たちのルーツ

犬の祖先はオオカミである、ということは、ご周知のとおりですね。

そう。まるでティディベアや、子ダヌキを思わせるような可愛らしい外見の子犬だって、子犬たちの祖先はすべてオオカミです。

 

野生のオオカミから、人と共同生活をするイエイヌへ。

イエイヌから狩りの友へ。狩の友から作業犬へ、愛玩犬へと犬の系統は分かれ、現在のペットへと進化を遂げてきました。

 

甘噛みをする8つの理由

ルーツを理解した上で、今度は、子犬が甘噛みをする理由について探っていきましょう。

 

[ポイント見出し point="理由①" title="〇〇本能"]

現代の犬たちは、実際に狩りをする仕事はほとんど無いといってもいいでしょう。

しかし、狩猟本能はそのまま犬に備わっているため、特に子犬のうちは、本能的に遊びをとおして狩りの疑似体験をし、持って生まれた狩猟本能を満たそうとします。

 

[ポイント見出し point="理由②" title="加減を学習する"]

甘噛みは、子犬たちのコミュニケーションのひとつです。

本来であれば、兄弟犬たちとじゃれあったりして遊んでいるうちに、自然と幼少期のうちに、甘噛みの力加減を学習していくものです。

 

しかし、この時期にあまり兄弟や同じ月齢の子犬と遊んでいない子は、甘噛みの力加減がわからず強く噛んでしまう、ということがあります。

早期に親兄弟と離された犬は、遊び相手が飼い主さんということになりますから、じゃれついて甘噛みをするのも、無理はありませんね。

 

[ポイント見出し point="理由③" title="かじりたい欲求"]

子犬はみんな好奇心旺盛。興味のあるものはなんでも口に入れ、それが何であるかを噛んで確かめる傾向にあります。人の赤ちゃんが何でも口に入れる様子とよく似ていますね。

 

しかし、コンセントなど電源系を噛んでしまうと、感電火傷につながる危険性がありますから、あらかじめ、コンセントガードでカバーをするなどの工夫が必要です。

 

[ポイント見出し point="理由④" title="乳歯が抜け替わる、むずがゆさを感じている"]

4か月くらいから乳歯が抜け替わる時期に突入します。その頃は、歯がムズムズしてかゆくなりますので、この時期はどうしても何かを噛まずにはいられなくなります。

 

イスやテーブルの脚、柱などの噛み応えのあるものが対象になることも。これには苦み成分のある犬が舐めても安心な、甘噛み対策の専用製品を塗布しておくのがおすすめです。

 

[ポイント見出し point="理由⑤" title="嬉しさあまって"]

子犬は嬉しさから興奮すると、その喜びを表現したくて、飼い主さんにじゃれつきます。ちょっとエキサイトしてくると、甘噛みをしてしまうこともあります。

 

子犬にとっては別れてしまった親兄弟と同じように、飼い主さんとコミュニケーションが取れていることがうれしく、舞い上がってテンションが高くなっているのですね。

 

[ポイント見出し point="理由⑥" title="飼い主さんの注意をひくため"]

子犬同士で遊ぶときに、体を軽く噛むことで遊びの誘いをすることがあります。ちょっかいを出す、というものですね。同じように、飼い主さんと遊びたいとき、かまってほしいときに甘噛みをして、遊びの誘いをします。

 

なにしろ子犬はしゃべれませんし、ひとのように手がありませんので、噛むことで「遊ぼうよ」と、合図を送っているのです。

 

[ポイント見出し point="理由⑦" title="退屈を感じている"]

エネルギーを発散することができず、退屈しているときには、暇つぶしのような感覚で近くにあるものを噛んでいる場合も多いのです。

お留守番の長い子犬は、退屈からケージの柵や、ベッドの中綿を出す、ペットシーツをビリビリと噛み散らかして、気を紛らわしていることがあります。

 

異物誤飲という観点からも非常に危険ですので、他の噛んでも良い玩具等で代替えしたり、お留守番の時間を短くしたり、と、手を打ちたいところです。

 

[ポイント見出し point="理由⑧" title="ストレスを感じている"]

遊びや運動の時間が不足していると、ストレスになる子犬もいます。また、住んでいる環境への不安や、飼い主とのコミュニケーション不足など、何らかのストレスを抱えていると、甘噛みに没頭してしまうことがあります。

 

甘噛みでやってはいけないNG対応

さて、子犬が甘噛みをする8つの理由が分かったところで、今度は、子犬の甘噛み対応で「やってはいけない」NG対応をご紹介します。

 

[ポイント見出し point="NG①" title="高い声でキャーキャー騒ぐ"]

お子様のいるご家庭ではこのようなことがよくあります。犬が甘噛みをしたときに、年齢の小さなお子様は、どうしても高い声を出してしまいがちです。

キャーキャーとした高い声は、子犬を興奮させてしまい、さらにエキサイトさせてしまう原因になります。

 

一定程度はいたしかたのないことですが、なるべく高い声を出す、走り逃げ回る、手を振り上げる、こうした反応をしないように、お子様ともよく話しあって、ご家族みなさんで対処する必要があります。

 

[ポイント見出し point="NG②" title="大きな声で叱る"]

甘噛みされたときに声を出して叱る。といった方法が、ひと昔前まではありました。

しかし、現在ではこの方法はあまり効果的ではないとされていて、逆に子犬を興奮させてしまう、子犬が叱り方に慣れてしまうなどの傾向が指摘されています。

 

また、この時期は、人と子犬の信頼関係を構築する大事な期間でもあります。

人=怖い、という印象が刷り込まれてしまうと、あとでカバーするのはとても時間がかかります。

 

[ポイント見出し point="NG③" title="叩く、叩くふりをする"]

甘噛みの原因は、習性によるものです。犬という動物の習性を、人が叩くことで抑圧するのはどうでしょうか。

いけないことは、いけないと教えるべきで、体で教える必要がある」と、強く主張する方もいます。

 

しかし、これにより、反撃するために「咬む」という行動を、子犬が思わずとってしまったとしたら…。後ほど詳しく説明しますが、こうした攻撃、防御のために取った「咬む」行為が引き金となることもあります。

 

本当は咬みつきたくなどなかったけれど、飼い主から叩かれ、怖くて思わず咬みついてしまった。このことがきっかけとなり、咬みつくことに慣れてしまうとしたら、実に悲しい展開ですね。

 

[ポイント見出し point="NG④" title="嚙ませっぱなしにする"]

2、3とは逆に、「子犬は噛んでも仕方のないものだから」と、飼い主さんの手やかかとを、噛ませっぱなしにする方もいます。そうした方たちの手は、ミミズ腫れの傷がたくさんですが、破傷風やパスツレラ菌などの人畜共通病、衛生面からも、やめたほうがベターです。

 

子犬は人のにおいや味が好きですから、どうしても飼い主さんの手やかかとが、甘噛みの的になってしまいます。

これはやはり本能的な欲求で、母兄弟と遊んだ記憶から、においのするもの、味のするもの、反応のあるものに魅力を感じるためです。

 

人の手は噛むものではなく、あなたをなでるためのもの。

人のかかとは噛んではいけないもの。(かかとへの甘噛み対処法は、苦み成分のある犬専用スプレーを使うのが早くて安全です)あなたが噛んでいいのは、手やかかとではなく、専用のおもちゃや知育玩具だけだと、遊びを通して子犬に教える必要があります。

 

[ポイント見出し point="NG⑤" title="人の手で遊ばせる"]

子犬は、ひらひらしたもの、目の前の動くものを追う傾向があります。

子供のころのよくあるエピソードに「犬が怖くて逃げようとして走ったら、犬が全速力で追いかけてきて、とても怖い思いをした」という話をたまに聞くことがあると思います。

これはその典型です。犬は追うのが好きな生きものです。

 

子犬を飼い始めのころは遊び方がよくわからずに、飼い主さんが自分の手をひらひらさせて遊ばせることがあります。

手にじゃれてついたときに、手を上にスっと引くのも、犬の「追いたい」という欲求を刺激し、挑発してしまうようなものですからNGです。噛みつくようになる原因となるからです。

 

犬と遊ぶ時は、噛んでもいいおもちゃを手に持って、それを介して遊ぶ、じゃれさせるようにしましょう。おもちゃは犬が間違って飼い主さんの手に触れてしまうことがないくらいの、ある程度の長さがあるものを使ってください。

 

[ポイント見出し point="NG⑥" title="甘噛みされたときにかまう"]

甘噛みをしてきたときに、いつでもすぐに反応して相手をすることにより、子犬の甘噛みが、遊びの合図になってしまうこともあります。

つまり、子犬としては「カプっと噛みつけば、飼い主さんが遊びをスタートしてくれる。よし、また遊びたくなったらカプっと噛みに行こう」。という図式が成り立ってしまいます。

 

子犬との関係づくりは、いつでも飼い主さんが主導権を持っていた方が、のちのち良い方向に向かいます。

ですから、この場合も、誘われたときには目線も合わせず、スッと立ち上がって別のことをします。

 

しかし、その時の子犬は「遊びたい」欲求を持っているわけですから、それを理解しつつ、子犬が別のことをし始めたときに、すかさず「〇〇、おいで、遊ぼう」と声をかけ、おもちゃなどを使って遊ぶようにします。

 

子犬は「さすがはうちの飼い主さん!わかってらっしゃる!」と、ますますあなたを尊敬し、もっと好きになるでしょう。

 

これが、子犬主導の要求を通さずに、気持ちを理解して満足させるテクニックです。成犬になってからも、こうした要求を伝えてきたときに使えます。

 

[ポイント見出し point="NG⑦" title="家具や壁を噛むのを許してしまう"]

噛んでいる現場を発見したら、その場で叱りましょう」。というのが、ひと昔前のセオリーでした。

しかし、このやり方ですと、子犬が噛んでもいいものとダメなものを見分けるのは困難ですし、飼い主さんが目くじらを立てて、見張らなければなりません。

双方にとって、あまり効率の良い方法とは思えません。

 

そこで、この場合は、犬が舐めてしまっても害がない苦み成分の入ったスプレー製品を、家具に振りかけて対策をしましょう。

子犬が家具を噛んだら→苦かった。という印象を刷り込むことで、家具を噛むよりも、おもちゃで遊んだほうが得だな、と思わせる方法です。

 

[ポイント見出し point="NG⑧" title="家族で甘噛みのルールがバラバラ"]

家族間で、子犬の甘噛みについてルールを統一することは大事です。

対応が人によってまちまちだと、犬は混乱し、していいことといけないことの区別がつかなくなってしまいますので、話し合い、統一をしたほうが良いでしょう。

 

かみつくは、「噛み」、「咬み」の二種類

かみつく、という言葉の漢字には「噛み」と「咬み」の二つが存在します。明確に分けられているといってもいいでしょう。

 

噛み

「噛み」については、ここまでお話をしてきたとおりです。

歯がゆい、なんでも口に入れたい、噛んで確かめたいといった成長過程における、子犬特有の生理的欲求。それから言葉をしゃべれない分、手を使えない分、口(歯)使って意思を示すといったもの。

また、広義では咀嚼するという意味もあります。これが子犬期における「噛み」にあたります。

 

咬みつく、という本能

では「咬み」についてはどうでしょう。犬が咬む、の意味には、敵意。恐怖。

これ以上近寄らないで、という意思表示のために、相手に脅威を感じさせるという明確な意思を持って、攻撃のために咬みつくこと。これが「犬が咬む」という行為にあたります。

 

俗に「本気咬み」と呼ばれていますが、まさに本気で咬みついて、相手に打撃を与えたいときに使う攻撃です。

 

犬たちは、原始の時代から咬むという一つの武器を持ち、人の役に立ってきました。牙で咬むという手法は、人には備わっていない技ですから、犬たちのその能力を借り、昔の人々は獣から身を守ってもらう、猟を手伝ってもらうなどに重宝してきました。

また、咬むという犬の能力を使って、人は家畜を守って生きてきた歴史もあります。

 

ですから、咬むというのは、現代では全く必要のなくなった能力ですが、犬のDNAに組み込まれた、種としての本能の一部には間違いありません。

このことを理解した上で、人を咬む必要がないこと、誰に対しても、何に対しても、歯を使って攻撃する必要のないことを、犬に教えていかなければなりません。

 

 

■犬の本気咬みを誘発するもの

犬の本気咬みを誘発する原因のひとつに、子犬期の甘噛みの対処法が間違っていたために、咬むようになってしまった。というケースがあります。

 

恐怖心や恐れ、威圧、不安、脅威、信頼できる人がいない、などの状況下においては、犬は咬みつくことでしか、それらから逃れられない場合があります。

例えば、小さないたずらをしつこく叱り、理不尽な暴力を受けたとしたら、犬は追い詰められ、敵意を持って敵「咬む」という行動に出てしまうでしょう。

 

こうした癖がついてしまってからでは、それを緩和するのはとても困難な作業が必要です。

犬の信頼を取り戻し、再び一から、関係を構築していく必要があるからです。それには犬だけではなく、合わせて、飼い主さんの考え方も変えなければなりません。

 

咬まない犬に育てるには

 

咬みつくことが最善策の防御だと決め込んでしまった犬は、飼い主さんだけでなく、他の場面でも咬みつく行為をします。そうなれば、ドッグランやお出かけもつまらないものになってしまいますし、いつでもトラブルに苛まされるようになります。

 

犬との暮らしを楽しく、快適にするコツには、こうした「咬む」という最大の防御を犬に覚えさせえる前に、飼い主との信頼関係をギューっとつないでしまうことです。

人って安心で、優しいよ。誰もあなたを攻撃しないから、心を穏やかにして大丈夫なんだよ。というように、安定と平和、同調と安らぎを、日々の暮らしの中で犬に教えていくことにあります。

 

それには、子犬期の甘噛みの対処の仕方がキーポイントになります。

  1. 甘噛みを叱る、から、逃す(代替えする)へ。
  2. 噛む、が、咬むにならないように。
  3. 私たち飼い主の対応ひとつで、子犬の未来は変わります。
  4.  

 

 

まとめ

いかがでしたか。子犬の『咬み』と『噛み』のちがいについて、深堀り解説してきました。

今までの対応が間違っていたから、と、肩を落とす必要はありません。

今日、今、これを読み「よし、やるぞ」と思った瞬間がスタートです。

どうぞ、犬との楽しい暮らし、豊かな生活を楽しむために、ぜひトライしてみてください。