【ドッグトレーナー監修】カーミングシグナルから読み解く犬の気持ち ~ポジティヴ編~

【ドッグトレーナー監修】カーミングシグナルから読み解く犬の気持ち ~ポジティヴ編~

愛犬家なら誰しも、犬の気持ちについて知りたいと思うものですね。

守るべき家族だからこそ、のぞいてみたい犬の心理。

今回は犬の気持ちを読み解くためのテクニック「カーミングシグナル」をご紹介。

その中でも、特に嬉しさや好意的な意味を持つポジティヴな表現について、ドッグトレーナーと一緒に見てまいりましょう。

 

~目次~

   1-1 犬からのメッセージ

1-2 カーミングシグナルが備わる時期

1-3 カーミングシグナルとボディランゲージのちがい

2. カーミングシグナルの種類

2-1 全部で約27種類

2-2 ポジティヴなシグナル

3. カーミングシグナルへの理解

3-1 勘違いされやすいポジティヴ・カーミングシグナル

3-2 カーミングシグナルは全犬に備わった能力か

3-3 カーミングシグナルのポイント

4. まとめ

 

■1. カーミングシグナルとは

1-1 犬からのメッセージ

カーミングシグナルとは、犬が不要な争いを避けるために、自分の立場や感情をしぐさで相手に伝えるための行動です。

これはノルウェーの動物学者、トゥーリッド・ルーガス氏により提唱されたもので、犬の見えざる感情を読み解く際によく使われています。

カーミングシグナルの「カーミング」は、"落ち着かせる"の意味。

シグナル」は、"信号"という意味です。ですか                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               らカーミングシグナルは、落ち着く(または相手を落ち着かせる)ための犬からのメッセージと捉えることができます。

例えば、「ちょっと興奮しすぎちゃった」と感じたときや、相手に「少し落ち着いて!」と伝えたいときに、このような行動によってメッセージを発信し、相手との距離感や自分の気持ちを調整しているというわけですね。

 

1-2 カーミングシグナルが備わる時期

カーミングシグナルは、ほとんどの犬に生まれつき備わった能力ですが、社会化期と呼ばれる幼少期において、ほかの犬や人と関わりの中で身に付けていくものもあります。

そのため、社会化がうまくできていない犬の場合、ほかの犬のカーミングシグナルに驚いてしまうだけで反応ができない、理解ができない。

また、自発的に適切なカーミングシグナルを出せないことにより、相手にとのコミュニケーションに失敗してしまうことや、相手に誤解されたり、といったこともあります。

愛犬にカーミングシグナルの上手な使い方を教える秘訣のひとつとして、生後8カ月までの社会化期に「きちんと社会化ができている犬」に、できるだけ多く会わせる機会を作るといったことがあります。

このポイントは、すでに適切な感情表現ができる危険ではない犬に会わせ、学びの場を作ることにあります。

犬同士はもとより、飼い主がカーミングシグナルを理解することで、犬が抱えているよろこびや緊張、興味の対象や、現在の心のコンディションを理解することができ、犬との信頼関係を強く結ぶことができます。

これはカーミングシグナルを通した双方向のコミュニケーションによって、犬からは「こうゆう気持ちなんだよ」という感情を表現することで、飼い主が受け止めて理解してくれた、という関係が成り立ち、気持ちのキャッチボールが頻繁に発生するためです。

 

1-3 カーミングシグナルとボディランゲージのちがい

ここで、カーミングシグナルとボディランゲージのちがいについて、一度触れたいと思います。実はドッグトレーナーの中でも意見の分かれるところで、このふたつを区別して考えるトレーナーと、いや、同じことだろうと考えるトレーナーがいて、時々、議論になるといった話を聞きます。

それもそのはず、カーミングシグナルとボディランゲージは、どちらとも犬からの表現という広い意味では同じものだからです。

ただし、このふたつは同じ行動であっても。

解釈の仕方が少しだけ違います。

みなさまがすでにご周知のように、犬は言葉をしゃべることができない代わりに、身体の細部までを使って、自分の感情を表現します。

これらすべてをボディランゲージと呼びますが、この中で、自分自身や周りを落ち着かせるという意味を持った動作を、カーミングシグナルとして区分けすることができます。

 

■2. カーミングシグナルの種類

2-1 全部で27種類

カーミングシグナルを提唱したテゥーリッド・ルーガス氏によれば、カーミングシグナルの数は約27個に分類され、代表的なものに以下が挙げられます。

 

・体を横にそらす

・カーブを描きながら近づく

・見知らぬ犬に体の横を見せてお尻から近づく

・尻尾を振る

・座る

・初対面の犬と出会った後、どこかへ行く

・前脚をかける

・鼻を持ち上げる

・2頭の犬の間をさく

・あくびをする

・体を振る

・体を低い位置にして飛び掛ろうとしている遊びの体勢

・尻尾を振って体を低くする

・子犬のようにじゃれる

・そっぽを向く

・犬同士が顔を見合い口元を後ろへ引く

・歯をカチカチと鳴らす

・口と鼻の周りを舐める

・口をパクパクさせる

・背中を向ける

・おしっこをする

・その場所にいないように振舞う

・固まる

・地面の臭いを嗅ぐ

・伏せる

・しようと思ってできなかった行動を別の行動に転移する

 

少しイメージがわきにくいものもありますが、解釈の仕方については様々なシチュエーションごとに柔軟に定義されます。

これらのカーミングシグナルは、大きく分けて「争いたい」「恐怖を感じている」「緊張状態」「平和、友好」「喜び、遊びの誘い」といったものに区分けできます。今回はこの中から、「平和、友好」「喜び、遊びの誘い」の、ポジティヴなカーミングシグナルにフォーカスしましょう。

※カーミングシグナルについては、この仕草はこの気持ちに違いない!と、ビタっと決めつけてしまうとか、思い込んでしまうのには注意が必要です。

なぜなら、同じアクションであったとしても、環境や相手、また、その子、その子によって、感情の表し方には差があるからです。

ですから、気持ちを読み解く手掛かりとして使う方が良いでしょう。

 

2-2 ポジティヴなシグナル

さて、このカーミングシグナル。

一般的には前出のように、緊張を緩和するために用いられることが多いのですが、27個のうち、例えば『見知らぬ犬に体の横を見せてお尻から近づく』といった仕草は、相手の犬(または人)に対して敵意を持っていないという意思を伝えるためのもの。

つまり、争いを望まない、平和的な意思表示をしているといるわけです。

また、『体を低い位置にして飛び掛ろうとしている遊びの体勢』は、俗にプレイバウと呼ばれるもので、犬同士の遊びの誘いに良く見られます。

ねえねえ、遊ぼうよ!」「僕は、こんなに面白いやつだよ」「フレンドリーだよ」といった友好的なポーズです。これがきっかけとなり、双方が賛成すれば遊びのスタートです。

しかし、時として、片方の犬の遊び熱が高く、相手の犬の遊び熱は期待しているほど高くはない場合があります。ここで何度も何度も執拗に遊びに誘うのは、相手が少し迷惑な気持ちになるかもしれません。

ですからそんなシーンでは、飼い主のスムーズな介入が必要なケースもあります。

口と鼻の周りを舐める』は、相手の犬や人の顔をぺろりと舐めるような行動です。「あなたをとても尊敬していますよ」「大好きなんだよ」というメッセージを伝えています。

さらに「だから、ささいなことは見逃してね、許してね」といった意味も込められています。

その仕草には、太古の犬の歴史にルーツがあります。犬の祖先はオオカミであるということはみなさんご存じのとおり。

オオカミは群れで暮らす動物ですから、その序列というものをとても大事にすることで、群れの存続をはかってきました。

その際、目下のオオカミはリーダーの口元や鼻先を、下方から舐めるそう。つまり「尊敬しているあなたに逆らいはしませんよ」という忠誠の誓いのような感情の表れです。

 

■3. カーミングシグナルへの理解

3-1 勘違いされやすい、ポジティヴ・カーミングシグナル

全部で27個あるカーミングシグナルの中には、遊び、友好、平和、争いを避ける、信頼を寄せる、といったポジティヴな意思を含んだものがいくつかあります。

その中で、犬の意思を勘違いして捉えられがちな仕草があるのでご紹介します。そのひとつが「相手に対して背中を向ける」という行動。

例えばご家庭で、愛犬が飼い主の横に来たにも関わらず、グッと背中を向けて座っているような仕草をされると、多くの飼い主は「あれ?背中を向けるなんて、感じが悪いなあ。私のことをバカにしているの?それとも嫌われているのかな?」と、ついついネガティヴな印象を持ってしまう方もいらっしゃいます。

しかし、この行動をカーミングシグナル的に読み解くと、そのポーズをするときの犬の気持ちは「あなたを信頼しているよ。だから、背中を預けるね」というものです。

ですから、愛犬が背中やお尻を向けてきたとしても、どうか怒ったりしないでください。

そうではなく、自身が愛犬から信頼されているという幸せな状況を感じて、私もあなたを信頼しているよ、という気持ちを犬に投げかけてみてください。

 

3-2 カーミングシグナルは全犬に備わった能力か

カーミングシグナルはすべての犬に、生まれつき備わっている能力です。

それでも、こうした表現をしづらい不得意な犬もいます。その理由はふたつあります。

ひとつは、犬種が持っている独特のもの。

ジェスチャーで感情表現をするのが得意な人種とそうでない人種がいるように、犬でも同じことが言えます。

例えば、柴犬、紀州犬、秋田犬などの日本原産の和犬や、マスティフ、ブルドッグなどのブルペンティング(闘犬)にルーツを持った犬たちは、顔や身体に感情を出すことが得意ではない犬だと言われています。

もうひとつの理由は、何度もシグナルを出していたにも関わらず、飼い主に気づかれなかったために、シグナルを発することに消極的になってしまったということがあります。

例えば、カーミングシグナルの中に『前脚をかける』(この場合は飼い主の脚に前脚をかける)というのがあります。

カーミングシグナル的な解釈では「大好きだよ、こっちを見て」という愛情表現です。

しかし、飼い主の取り方によってはこの行為を「行儀が悪い」とか「しつこい」などと捉えてしまい、犬を叱るケースがあります。

そうなると犬にとっては、この表現をすると→嫌なことが起きる→だから、やめよう。

といった一連の流れが定着してしまいます。

犬はメッセージをを伝えるのをあきらめ、伝わらない感情を他の行動で発散させようとします。

それがストレスとなり、結果として問題行動につながるというパターンもありますので気を付けたいところです。

私たち人も子供だった頃は、親の圧力が強すぎたり、無視をされ続けると、本当の感情を押し殺してしまうことがありますね。

寂しい孤独な環境にさらされていたり、自分に興味がない相手には、心が萎縮してしまうこともあります。これは犬も同じこと。

何かを伝えるための行動をしても、相手に伝わらなければ、持って生まれたシグナルを出す能力は、どんどん失われていきます。

カーミングシグナルは、しゃべることのできない犬たちにとっての心の声とも言えるでしょう。

彼らはカーミングシグナルを発信することにより、自身の気持ち、感情を表現してコントロールしています。

そのシグナルを読み解くことができれば、愛犬とのキャッチボールは続いてきずなが深まります。

ですから私たち飼い主は、犬からのシグナルをつぶさに見つけ、理解してあげることが重要なのです。

3-3 カーミングシグナルのポイント

犬からのカーミングシグナルを読み解くカギは、犬の身体、表情をよく観察することにあります。

ここからは、愛犬のどんなところに注目し観察すべきかについて、ポイントをお伝えします。

 

【耳】

耳は、犬にとって大事な情報収集気管のひとつ。

緊張状態は耳に現れることが多いですからチェックしたいポイントです。

リラックスしているときはやや後方に引き、気持ちが安らぐとともに、安心感から力が抜けて柔らかくなっていきます。

逆に、警戒モードに入っているときにはピンと力が入り、耳が前のめりになります。

 

【しっぽ】

しっぽは犬の感情表現が現れやすい体の部位です。

気分の良いときや嬉しいときにユラユラと穏やかにしっぽを振りますが、「こっちに来ないで」とか「怖いからやめて」といった気持ちのときにはしっぽを後ろ足の間に入れて、できるだけ自分を小さく見せようとします。

 

【口元】

え?口元?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。

そう。実は口周りに、犬のカーミングシグナルが出ている場合がありますから、ここは押さえておきたい大事なポイントです。

嬉しいときには口角が上がり、まるで人がニコっと笑っているかのように見えますね。

反対に、犬や人に対して警戒モードになっているときは、口の端をぎゅっと結んでこわばっていることが多いので、よく観察をしてみてください。

 

4. まとめ

さて、いかがでしたでしょうか。犬のカーミングシグナルから読み解く、ポジティヴな犬の気持ちをお送りしてきました。

こうした犬の持つ本来の感情表現は、教えようと思ってもできないものです。

飼い主ができるのは犬がカーミングシグナルを出しやすい環境にすることに加え、犬からのサインを見逃さずにキャッチすることです。

これを繰り返すうちに、しゃべれなくても心と心でつながるようになり、目には見えない太く強い、信頼という名のきずなが生まれるのです。

カーミングシグナルについてご興味が沸いてきたら、ぜひ愛犬をよく観察し分析してみると、きっと今までになかった気づきがありますよ。