動物看護士が教えるペットに寄生するノミ・マダニの対処法

犬猫を飼っていると、春になるとノミダニ予防について耳にすることが増えますよね。

しかし、予防薬は決して安くはないですし、定期的に飲ませたり付けたりするのも面倒!

そもそも絶対に予防しないといけないものなの?

そんな疑問に答えるべく、ノミダニの生態から予防法まで紹介したいと思います。

 

ノミ・ダニって?

ノミダニ予防と言われますが、どちらもたくさん種類がいて、正しくはネコノミとマダニが主になります。(さらにマダニにもたくさんの種類がいます。)

どちらも血を吸うことは共通していますが、それぞれどう違うのか、血を吸われるとどうなるのか、どうして駆虫する必要があるのかみていきましょう。

 

ノミ

ペットの体にピョンピョン跳ねている小さい虫が付いていたら、それはノミです。

毛をかき分けて、皮膚に黒い小さい粒々が付いていたら、それはノミの糞の可能性があります。

姿が見えなくても糞が見付かった場合は、本体も寄生しているので駆虫するようにしましょう。

ノミの糞は黒っぽく見えますが、元は血液です。

水で濡らしたティッシュの上に置いて少しすると赤く滲んでくるので、ノミの糞か汚れか分からないときは試してみてくださいね。

 

ノミには、イヌノミやヒトノミなど色々な種類がいますが、最近日本で見られるのはほとんどがネコノミです。

ネコノミという名前ですが、猫だけでなく犬やネズミ、人にも寄生するので、気を付けてくださいね。

 

血を吸うのはネコノミの成虫のみですが、性別に関係なくオスもメスも吸血します。

1度付くと20-25分間ほど吸血し、その後もその動物に寄生して一生を過ごします。

メスは30-50個ほどの卵を1日に産み、生涯で2000個ほどの卵を産むこともあります。

動物の体からその卵が落ち、室内ではカーペットや畳の隙間などに入り込み、早いと2-3日で孵化します。

幼虫は、成虫の糞や食べ残しのゴミなどを食べ、吸血することはありませんが、早ければ1週間ほどでさなぎになり、さらに1-2週間で成虫になります。

成虫になると動物に寄生し、吸血するようになります。メスの成虫は吸血してから24-48時間後には産卵すると言われており、吸血と産卵を繰り返し、1~2ヵ月で死に絶えます。

温度20-30℃、湿度70%以上がノミに好ましい環境なので、春~夏だけではなく、家の中であれば年中繁殖の可能性があります。

また長いと半年間ほど卵やさなぎの状態のままでいられるので、すべて掃除し終わり、もういなくなったと油断した頃に孵化し、再び繁殖する恐れもあります。

しっかりと予防、駆虫を行わないと簡単に家の中で大繁殖を起こしてしまうので注意が必要です。

 

ノミに吸血されると、動物も人も刺された場所が赤く腫れ、痒みを伴うことが多いです。

そこから皮膚炎や、体の小さい子が大量に寄生されると貧血を起こす可能性もあります。

また瓜実条虫症(サナダムシ)に感染し、体調を崩すこともあります。

なによりノミが大量発生した家で過ごすのは嫌ですよね。

人も動物も血を吸われるので、ノミにとっては天国でしょうが人からすると地獄です…。きちんと予防して家の中での繁殖を防げるようにしましょう。

 

※瓜実条虫症…人獣共通感染症。(人にも動物にも感染する感染症)

犬猫では、瓜実条虫を持ったノミを、グルーミングなどにより誤って食べてしまったりすることによって感染し、虫が体内で50cm以上に成長。

たいていの場合は無症状だが、大量に寄生されていたりすると、下痢や体重減少などの症状が現れることがある。

便に虫の体の一部(片節)が排出されることもあり、肛門を気にする様子がみられると感染している可能性が高い。

人間では瓜実条虫をもつノミを手で潰し、その手でものを食べたりすることにより口に入り、感染する。こちらもほとんどは無症状。

 

マダニ

マダニはノミよりもサイズが大きく、吸血することによってさらに100倍ほどになることもあり、驚くほどの大きさになります。

目に見える大きさの虫で、ノミのようにすばしっこく動くわけではないので、簡単に見つけることができますが、マダニではなく何かできものが出来てしまったと思い、動物病院に連れてこられる飼い主さんもおられました。

 

ノミと違い、幼ダニ、若ダニ、成ダニと卵以外のすべての形態の時に吸血し、1週間ほど吸血すると地表に落ち、成長してまた次の宿主(寄生される生物のこと)につくということを繰り返し、最終的にメスは卵を産むために吸血し、2000-3000個の卵を産んで死にます。

草むらや河川敷など、どこにでもいる可能性があるので、山などには行かないからと予防を怠ると寄生されてしまうかもしれません。

野外では初夏~秋頃までが活動的になりますが、家の中に持ち帰ってしまうと暖かいので、年中活動することもあり注意が必要です。

 

吸血されると、赤く腫れ、炎症を起こすこともありますが、痒みはほとんどありません。

また、ノミと同じように皮膚炎や貧血を起こすこともありますが、もっと恐ろしいのが他の病気をうつされるかもしれないことです。最近ニュースでもよく取り上げられていますが、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)はマダニに咬まれることにより感染し、2013年には日本での死亡例もあります。

他にも犬バベシア症やライム病やQ熱、日本紅斑熱、ダニ脳炎などマダニが媒介する病気は多くあります。命に関わるものもあり、治療薬が確立していないものもあるので、何よりもマダニに寄生されないように予防することが大事です。

 

※SFTS…人獣共通感染症。

ウイルス保有のマダニに咬まれることにより感染し、発熱や消化器症状(食欲不振・嘔吐・下痢・腹痛など)、神経症状(意識障害・失語など)、リンパ節腫脹などの症状がみられる。

主に西日本中心にみられる感染症だったが、昨今では全国的にみられるようになってきている。

死亡率10-30%。

犬や猫でも食欲不振や元気消失、発熱、黄疸などの症状がみられ、犬で致死率29%ほど、猫で60%ほどとも言われており、感染している犬猫に噛まれることでも人に感染する恐れがあると言われているので注意が必要。

ワクチンや治療薬はないので、感染した場合にできることは対症療法のみ。

 

※犬バベシア症…バベシア原虫が犬の赤血球に寄生し、壊すことにより発症。貧血や発熱、食欲不振、黄疸、衰弱などの症状がみられ、急性では死亡することも。

マダニが吸血後、48時間以降で感染すると言われているので、早く駆虫することか重要。

 

※ライム病…人獣共通感染症。

人では、初期にはマダニに咬まれた部分から特徴的に赤くなる遊走性紅斑と呼ばれるものが現れ、発熱や筋肉痛などのインフルエンザのような症状がみられる。

適切に治療しないと数週間~数ヶ月後に神経症状(起立不能や歩行異常など)や心疾患が現れることも。

犬ではほとんどが無症状。まれに症状がみられる場合は、発熱や食欲不振、関節炎などがみられる。

 

※Q熱…人獣共通感染症。

多くの動物、ダニが保菌しているリケッチア(細菌より小さくウイルスより大きい微生物。

動物や人の細胞内で増殖する)の1種。人では、発熱や頭痛、筋肉痛のようなインフルエンザのような症状がみられ、急性では死亡することも。

犬猫では無症状であることが多く、症状が出たとしても軽い発熱程度であることが多い。

妊娠している場合は、流産や死産してしまうので注意が必要。

 

※日本紅斑熱…リケッチアの1種。人では、高熱や頭痛、倦怠感、全身に発疹(紅斑)がみられ、刺されたところが赤く腫れる。2020年に千葉県で死亡例もある。

犬猫では、発症報告がなく、感染したとしても症状がないと思われるが、詳しいことは分かっていない。

 

※ダニ媒介性脳炎…人獣共通感染症。

ねずみや鳥などの野性動物からマダニを媒介して人へ感染する。

日本では発症例は少なく、北海道で5件のみ報告されている。

感染していても無症状であることが多いが、発症すると頭痛、発熱、嘔吐などがみられ、脳脊髄炎を発症すると中枢神経症状(精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺など)がみられ、致死率は30-40%にもなる。

一命を取り留めても後遺症が残ることも多い。

犬猫でも無症状で症状が現れないことがほとんどだが、犬で人と同じような脳炎症状の報告がある。

対処法

それでは実際にどのように対処するのがベストなのでしょう。

おうちの子に付いているノミ・マダニを見つけたらどうする?

駆虫するにはどんな方法がある?そもそも付かないようにできる?家の掃除の注意点は?など、みていきましょう。

 

ついているのを発見したら

ノミもマダニもなるべく早く発見し、繁殖を防ぐために、外から帰ったらブラッシングをするなどして、全身チェックをするようにしましょう。

また、おうちでまったりスキンシップをとったりしていると、ノミやマダニを偶然発見することもあります。見つけた時の対処法をまずはみてみましょう。

 

ノミ

・潰すのは絶対NG!

卵を持ったメスを潰してしまうと卵が飛び散ってしまう恐れがありますし、瓜実条虫を持った個体だと潰した手から感染の危険もあります!

潰したくなりますが、ぐっと堪えて、絶対に潰さないようにしてくださいね。

 

・ガムテープなどでくっつけて捕まえましょう

テープなどにくっつけてしまえば、逃げられませんし、卵が飛び散ることもないので安心です。

ノミ取りコームで捕まえて素早くテープにくっつけたり、それほど粘着力が強くないテープであれば動物の体を直接ペタペタして捕まえてみてください。

 

・マダニ

※絶対に無理に取ろうとしない!

吸血中のマダニを無理に取ると、吸血されている動物の体の中にマダニの口先(口吻)が残ってしまう可能性があります。

残ると皮膚炎の原因にもなります。

マダニは吸血時、簡単に抜けないようにセメントのようなもので固めているので、しっかりとくっついており、なかなか取れないようになっています。

無理に剥がすと体に虫の一部が残るだけでなく、マダニの体内から病原菌などが入ってしまう恐れもあるので、絶対に取らずそのままにしておいてくださいね。

気持ち悪くて今すぐ取ってあげたい気持ちもすごく分かるのですが…我慢です!

剥がさず触らず、そのままの状態で動物病院へ行ってください。

人間の場合は皮膚科へ行ってくださいね。必ず病院で適切に対処してもらうようにしましょう。

 
 

掃除するには?

ノミ・マダニが繁殖していることが分かると、家中を掃除する必要があります。

特に部屋の隅やソファー、ベッドの下などの薄暗い場所、カーペットの上、畳の隙間、動物のベッド周りなどに潜んでいる可能性が高いので、念入りに掃除しましょう。

掃除機をかけたら、ゴミはすぐに袋にまとめてしっかりと結んで捨てましょう。

また布製のものは中に入り込んでいる可能性があるので、捨てられるものは思いきって捨てて、新調しましょう。

どうしても捨てられないものは、ノミは60~70℃のお湯に弱いので、浸けて大丈夫なものであれば20分ほど浸けておきましょう。さらに乾燥機にかけるとより効果的です。

また燻煙タイプの殺虫、防虫剤でもノミやマダニに効果があるものもあるので、合わせて使用しましょう。使用する際は、必ずペットがいる家でも使用できるものを選んでくださいね。

 

つく前に予防

ノミマダニが活発になる時期に合わせて、毎年事前に予防を行うようにしましょう。

フィラリア予防と同じぐらいの時期なので、1錠でまとめて予防できる薬を買われる方が多かったです。

しかし、フィラリアは5月頃から12月頃までが予防期間ですが、ノミダニは年中予防が推奨されているので、できればフィラリアの時期以降は、ノミダニ予防だけに効く薬に変更するなどして、1年中きちんと予防するのがベストです。

 

残念ながら病院で取り扱っている薬の多くは、根本的にノミマダニを付かないようにすることはできませんが、付いたとしても効果のある期間内であれば、24~48時間のうちに駆虫してくれます。

また、卵の孵化を防ぐ成分や、幼虫の発育を阻害する成分が含まれているものもあり、予防していれば確実に繁殖を防ぐことができます。

 

ではどのようなタイプの薬があるのかみてみましょう。

・首に垂らすだけ、スポットタイプ

動物が舐めないように口の届かない首の背中側、肩甲骨の間あたりに液体を垂らす薬です。

ノミダニだけではなく、お腹の虫(回虫)やシラミ、ハジラミに効くものもあります。

皮膚に垂らすことによって皮脂腺に薬中成分が入り、皮脂の分泌と共に全身に行き渡り効果を発揮します。

 

・おやつのように食べるだけ、チュアブルタイプ

フィラリア予防と一緒になっていることが多く、動物の好きなお肉の味がするので好んで食べてくれる子が多いです。

何のストレスもなく投薬できるので、簡単ですが1ヶ月に1回きちんと忘れずに与える必要があります。またフィラリアや回虫などお腹に寄生する虫にも効果があるので、スポットタイプより少し高くなります。

おやつタイプではなく薬のような錠剤タイプのものもあります。

 

・子犬、子猫から使えるスプレータイプ

生後2日から使えるものもあり、ノミだらけになってしまった野良子猫を保護したときにも使えます。

全身に簡単に振りかけることができるので気軽に使うことができます。

ノミ、マダニの成虫にしか効果がないものが多く、その場合繁殖を防ぐことには適していません。

 

・市販のものは?

上記のものは、動物病院で処方される医薬品になり、ペットショップやホームセンターなどで販売されているものは医薬部外品になります。

同じように首に垂らすものやスプレータイプ、首輪タイプのものなど様々な種類があります。

何より動物病院でもらう薬よりも値段がかなり安いので、手を出しやすいと思います。

しかし、安いのには理由があり、入っている成分の違いで駆虫率が低いものや、薬の成分が短期間しか持続しないものがあるので、結果的には何度も薬を使う必要があり、安かったつもりがトータルすると処方薬と同じぐらいかかってしまうこともあります。

また思ったほど駆虫効果があらわれず、最終的には動物病院を受診することになるかもしれません。

そうなることを考えると、初めから動物病院で処方される予防薬を使用する方が経済的かもしれませんね。

もちろんすべての市販薬に効果がないわけではないので、虫の嫌がる匂いの虫よけスプレーを補助的に使ったりするなど、状況により使い分けてみてください。

 

まとめ

ノミダニは、寄生されると血を吸われ、おうちで大量繁殖し不快なだけでなく、他の恐ろしい病気をうつされることもあり、油断すると大変な目に逢います。

確かに予防薬は安くはなく、効果が見えづらいので使わなくてもいいかなと思う気持ちも分かります。

そもそも寄生されるか分からないし、病気をうつされる可能性はもっと低いしと思いますよね。

しかし、病気になってしまうと、治療費もそれなりにかかってしまいますし、最悪の場合、愛犬愛猫だけでなく飼い主さん自身も命の危険にさらされてしまうかもしれません。

そのような事態を防ぐためにも、毎月の予防をきちんと忘れずに行うようにしましょう。