動物看護士に学ぶペットのアレルギーについて

アレルギーとは

アレルギーとはある特定の異物に対して、免疫が過剰に反応して、体に何らかの症状が引き起こされることを言います。

昨今、動物でのアレルギーもめずらしくなく、病院を受診する方も増えています。動物は、いったい何でアレルギー反応が起こるのか、どんな症状が出るのか、診断はどのようにするのかなど、アレルギーについて学んでみましょう。

 

アレルゲン

アレルゲンとはアレルギー反応を引き起こす対象となるもののことを言います。

花粉やナッツ、卵や蕎麦、金属など人間でも様々なアレルゲンがありますよね。

アレルギー反応と思われる症状が出た場合は、アレルゲンを特定し、それを除去する必要があります。

アレルゲンが体内に取り込まれない限り、症状は出ないので、アレルゲンを特定することはとても重要になります。

では、動物に多いアレルギーは一体何でしょう?だいたい大きく3つに分けて考えられているので、1つずつみていきましょう。

 

ノミアレルギー

動物の身体に寄生し、吸血するノミが原因で起こります。

体にノミがつき、吸血される際のノミの唾液がアレルゲンとなります。

通常、ノミに吸血されると、吸血された部位が赤くなり、痒くなったりしますが、その反応とは違い、全身に症状がみられます。

背中~腰辺り、特に尻尾の付け根付近に赤いプツプツができたり、脱毛、かさぶたがみられたりします。

かなり強い掻痒感があり、掻きむしってしまうことにより、掻き崩して皮膚がボロボロになってしまいます。

人間は掻き過ぎないように自分で気を付けることができますが、動物はそうはいかないので、エリザベスカラーをして口が届かないようにするなど対策が必要となることもあります。

(エリザベスカラーを付けても足は届くので、口を使って噛んだり舐めたりするのを防ぐことしかできませんが…)

ノミアレルギーは、ノミに吸血されることにより引き起こされるので、ノミがつかないように対策をすることで症状の改善が期待されます。

皮膚の状態により、炎症や痒みを抑える薬を使いながら、ノミの予防薬をつけることはもちろん、ノミは1匹いるとあっという間に繁殖してしまうので、既に家で繁殖の可能性があるようであれば、徹底的に駆除、掃除をしてノミを全滅させましょう。

ノミの唾液がアレルゲンなので、それがなくなれば症状はかなり治まると考えられています。

ただし1度良くなったとしても、たとえ1匹でも再びノミに噛まれるとアレルギー反応が出てしまうので、症状がおさまった後も引き続き、最低でもノミが活発な時期は予防を怠らず、注意が必要です。

できれば通年予防を心がけましょう。また多頭飼いで、おうちに他に同居している動物がいる場合は、必ずその子たちも同時に予防するようにしましょう。

3つの中では1番簡単に対処することができるので、ノミ予防をしていない場合はノミアレルギーの可能性を考えて、まず初めにノミ予防の薬をつけることになります。

 

アトピー性皮膚炎

花粉、ダニ、カビなどがアレルゲンとなり、起こります。

猫よりも犬に多く、柴犬やテリア、レトリバー、シーズーなどの犬種には遺伝的に多いと言われています。

実際に動物病院で働いていると、アトピー性皮膚炎で長く苦労している子は、シーズーと柴犬が圧倒的に多かったです。

6ヶ月~3歳以下での発症が多いですが、診断が難しく、他の病気や食物アレルギーなどの可能性を排除し、細かく問診をする必要があります。

顔周辺や足先、肉球の間などの痒みや脱毛がみられます。

皮膚は、初めのうちは赤みがありますが、慢性化すると黒く厚くなってしまうこともあります。

原因が花粉であれば、季節性のもので時期が過ぎれば治まりますが、ダニやカビなどの場合は通年症状がみられます。

アレルゲンを除去することが難しいので完治は難しく、薬とスキンケアでコントロールしながらつき合っていくことになります。

薬にはステロイドや免疫抑制剤が使用されることが多く、様子をみながら、用量を調整する必要があります。

また、スキンケアでは薬浴(薬用シャンプーを使いシャンプーすること)を定期的に行うことを指示されることもあります。トリミングサロンを併設していない動物病院でも薬浴は行ってもらえることが多いので、おうちでのシャンプーが大変な場合は、かかりつけの動物病院に相談してみてください。

シャンプーの流し残しや半乾きなど、中途半端にシャンプーをするとより悪化してしまうこともあるので、気を付けてくださいね。

 

食物アレルギー

 

食物アレルギーといえば、蕎麦や卵、ナッツ類など人間にも多くみられますよね。

同じように動物でも食物アレルギーを持っている子もいます。牛、豚、鶏、卵などたんぱく質に反応し、症状が出ることが多いです。

人間の食物アレルギーでも皮膚症状が多いですが、動物でも皮膚症状が大半を占め、目や口周りの顔面や指趾端、内股などに痒みが出ます。

またこれまでの2つと違い、嘔吐や軟便、下痢などの消化器症状がみられることもあります。

新しいフードを食べ始めた時だけでなく、今まで何年も食べていたもので急に起こることもあり、診断が難しいです。

 

食物アレルギーが疑われるときは、除去食試験と呼ばれる試験を行い、アレルゲンとなる食材を除去する必要があります。

 

除去食試験とは

  • ①、現在食べているフード、おやつ、サプリメントなどに含まれているたんぱく質を調べる
  •  
  • ②、①に含まれていないたんぱく質のフード、もしくはたんぱく質を加水分解(たんぱく質をアミノ酸に分解する方法の1つ)してアレルギーを起こしにくくしたフードに変更する
  •  
  • ③一定期間与えてみて、症状が治まるか確認する
  • ④治まった場合、元のフードに戻してみて、症状が再発するか確認する

(④は、③で成果を確認できれば行わない場合もあります。)

 

フードを変えてすぐに分かることではないので、1ヶ月以上かけて確認していくことになり、かなり気長に行うことになります。痒みや皮膚の状態がひどい場合は、薬を併用することもあります。

試験の成果を見たいので、期間中は決められたフード以外はおやつもサプリメントなども新たに始めたり、与えたりすることはできません。少しでも食べてしまうと、除去食試験の意味がなくなってしまうので、家族全員が他のものをあげないように気を付けて、協力してもらう必要があります。

同居のおじいちゃん、おばあちゃんが可哀想だからと隠れてあげていたということもありましたので、必ず家族全員に理解してもらってくださいね。

 

診断方法

ご紹介したように、動物のアレルギー反応は皮膚症状で現れることがほとんどです。動物病院の皮膚トラブルでの来院数は多く、アレルギー以外に他の病気やストレスなど様々な原因で起こりうる症状なので、原因を突き止めることも難しく、治療が目に見えて効果が出るまでに時間がかかることも多いです。

動物は喋ることができないので、細かい症状なども聞き取ることができないのも一因ですね。

では、動物病院ではどのようにして他の疾患ではなく、アレルギーと診断するのでしょうか。少しだけ簡単にご紹介します。

 

問診

言葉を話せない動物の診察には、飼い主さんからの情報がとても重要です。

他の病気の時もそうですが、いつからどのような症状があるのか、何をどのぐらいの量食べているのか、身体のどこを痒がるのか、どこに発疹が出ているのか、毎年出るのか、この季節だけなのか、などたくさんのことを尋ねます。

飼い主さんからの答えと症状、検査結果などを踏まえて、獣医師は診断し、治療に入ります。

情報が少ないと、考えられる病気を絞ることができず、検査をたくさんすることになったり、無駄な時間がかかってしまうかもしれません。

 

アレルギーが疑われるときに主に聞かれること

・いつ頃(何歳頃)から起こった症状なのか

・季節性はあるのか

・今食べているフードやおやつの商品名、原材料(場合によっては商品の袋を持ってきてもらうように頼むこともあります)

・ノミ予防はしているか

・外に出ることはあるか

・同居動物の有無

・他の病院で診てもらったことはあるか

 

以上のようなことを聞かれるので、答えられるようにしておきましょう。

よく「動物病院へはいつもお世話をしている人が連れてきてください」と言われるのは、この問診がとても重要だからです。アレルギー疾患だけでなく、他の病気の時でも病院側からたくさんのことを聞かれると思うので、答えられる人が連れていくようにしてくださいね。

 

消去法

皮膚の状態をチェックし、病変部の場所や他の症状、問診内容などを総合して、アレルギー以外の病気である可能性も考えます。

必要であれば血液検査や超音波検査、レントゲン検査なども行い、異常がないかを確認し、他の病気である可能性を消去していく必要があります。

また、ノミの予防薬を使用していない場合は、まず最初に予防薬を使い、ノミアレルギーの可能性を消します。

そうして、色々な可能性を否定するために色々な検査をしたり、予防薬を使ったりして、アレルギーなのか、アレルギーである場合は何のアレルギーなのかを慎重に調べていきます。

 

他の病気のように、「画像診断で見えるので」、「血液検査でこの数値が上がっていたので」と確定診断をつけることができないのでアレルギー疾患は診断が難しく、すぐに良くなることもないので、飼い主さんがセカンド・オピニオンで他の病院へ移ってしまうこともよくあります。逆にセカンド・オピニオンで来られる方も多いです。

1つずつ可能性を消していっている段階で他の病院に移ってしまうと、それまでの検査が無駄になってしまいますし、新しく行った病院でも同じような検査をしなければならないかもしれません。

 

痒みなどの症状は、強い薬を使えばすぐに治まります。

しかし、最初の選択でその薬を選んでしまうと、耐性菌ができてしまい、抗生剤の効かない菌が増える可能性があります。

もちろん飼い主さんからすると、すぐに効く薬を出してもらえる方が良いですし、すぐに治してくれた良い先生!となるのも分かります。

しかし、きちんと先のことも考えてくれる獣医師であれば、初めから強い薬を処方したりはせず、色々な可能性を考えて治療に臨んでくれるので、すぐに良くならなくてお金ばかりかかる!と思わずに、少し時間がかかることを理解してもらえると助かります。

もちろん納得のいかない説明や治療方針であれば、セカンド・オピニオンも検討してください。

きちんと納得して治療に臨めるように、自分達に合った病院、獣医師を探すようにしてくださいね。

 

血液検査

人間のように血液検査で何に対してアレルギーがあるのかを調べることもできます。

アレルギーの数値が目に見えるので、分かりやすいですよね。

病院内でできる検査ではないので、検査センターに血液を送って、検査してもらいます。

色々な検査会社がアレルギー検査を行っていますが、正直私が勤めていた動物病院では血液のアレルギー検査はあまりおすすめしていませんでした。

というのも費用が高く、飼い主さんの負担が大きいことと、検査の精度があまり高くなく、検査結果で数値が高く出たからと言ってその項目にアレルギーがあるとは言い難かったからです。

 

ただ、検査会社によって独自の検査方法を取り入れ、数値の信憑性が高まり、実用的になっていることもあるようなので、かかりつけの病院の獣医師と相談して検査を受けるか考えるようにしてください。

 

まとめ

ペットのアレルギーには主にノミアレルギー、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーがあり、どれも皮膚症状が現れ、診断が難しいです。

痒みが出ている場合は、一時的なものであれば少し様子を見てもいいのですが、しつこく掻いたり続くようであれば、早めに動物病院へ連れていってあげるようにしましょう。

人間でも同じですが、痒みは相当ストレスになり、眠れなくなることもありますよね。

病院へ行ったとしても良くなるまでに少し時間がかかるかもしれませんが、アレルギーは完治が難しく、長く付き合う必要がある疾患なので、獣医師からの説明をしっかりと聞き、分からないことは確認しながら治療してあげてくださいね。